推薦版。日本が誇る中世シチリア王国研究の第一人者高山博氏の一般向け概説書がついに江湖に評を問うことになった。シチリアはヨーロッパ、ビザンツ、イスラームの3つの文化を互いにおりまぜ、共栄させた「地中海帝国」である。なによりも驚くのはその文書の多元性である。すなわち行政文書はラテン語、ギリシア語、アラビア語の3語が使われていた。そして官庁もまた「ドゥアーナ・デ・セクレティース」は「ディーワーン・アッタフキーク・アルマームール」のように複数の名で呼ばれた。高山はこれらの言語を使いこなし、従来別々の官庁と理解されたりして、高度に複雑化された官庁機構というイメージをうち破ると同時に、ヨーロッパへの文化の伝達者というような欧州中心主義の視点からも解放されたリアルな姿をやさしいことばで教えてくれる。こむずかしくない概説として両シチリア王国を知るには絶好の書である。