日本で汪兆銘というと、なぜか「漢奸」論を逆輸入したような印象、すなわち傀儡にすぎず、しかも卑怯な人物という印象がある。
本書はノンフィクションとして汪兆銘の遺族を訪ね、文人政治家としての汪兆銘と当時の中国政治の流れを一つ一つ解き明かしてゆく。題名に示されるとおり汪兆銘は、あくまで反帝国主義の立場に立った上で、日本と和平し自主独立の中国を導こうとしていたという。それは彼がなによりも共産主義を警戒していたからでもある。
本書で示される関ヶ原戦時の真田家ばりの蒋介石との密約――すなわち国民党を二つに割って和平と戦陣の両路をとる――は衝撃的であった。
ただ私はノンフィクション的な文体には反感を覚えてしまうので、読むのがつらかったのも事実である。