春江一也は、現役外交官、現ダバオ領事江口氏である。本書は現役外交官として「プラハの春」に遭遇した氏が、現実に取材をして再構成したフィクションである。この中で問われるのは、本来あるべき社会とはなにか、人として生きる上で権力とは何か、ということである。ハンガリー動乱でも、プラハの春でも、第一次第二次天安門事件でも人々はインターナショナルを歌った。そこに込められていた思いはいったいどういうものだったのだろうか。
本書に登場する人々はいたく魅力的だ。カレル大学の老講師で実はナチスのころから続く無抵抗「言葉による」テロの指導者、DDR市民にして共産党のあるべき姿を夢見る女性。実際のプラハの春を指導したドゥプチェク、冷静温厚にして人としてのあり方を示す日本大使、国民を守るということを至上課題とする老軍人大統領ズボボダ。彼らの実際の群像はいったいどうであったのだろうか。そこに歴史を紐解くヒントがある。