特選版.ヨーロッパ拡大の源流を, キリスト教世界拡大の文脈に見, それが中世から始まっていることを示す.それは異教徒世界の破壊をどのように見るか, それと視角を等しくする.
それに従ってゆくと, 非攻撃的であり平和に暮らす異教徒を人間と見て, 火と剣による征服(というより断続的に征服していることで存在価値のある)の修道騎士団=北の十字軍を否定し, 万民法, 自然法が異教徒にも適用される, と唱えるパウルス・ウラディーミリにゆきつき, やがてはラス・カサスへとつづく「人権」の源流が見えてくる.しかしラス・カサスへとつづくのは, 同時に火と剣の征服が, 大航海時代までつづくキリスト教的ヨーロッパの拡大の野望へとつづいていたことも示す.
本書は, ドイツ騎士団の歴史とともに, さらに重要な「ヨーロッパ」の底流や「人権」の流れに付いてまで踏み込む.歴史書としての重みと政治誌的な重みを双方含み持つ近年稀にみる好著である.