推薦版.この本は寺崎英成という外交官が、昭和天皇の戦争当時を回想しての口述を記録したもの-寺崎手記をおさめている。以前に文芸春秋に掲載され大きな話題となったが、現在では戦時の研究を補強するのに使われているようだ。
この終戦後の聞き取りを行った時期の帝の視点は、天皇制自由主義的帝国主義者のそれである。そして当時の国民の多くと近いものだったのではないかと思われる。
内容の探求は伊藤、秦、児島、半藤といった識者の座談(本書収録)をよめばよい。むしろこの書物から浮かび上がってくるのは、アジア太平洋戦争記の宮中の雰囲気であろう。私としてはやはり木戸内府の存在の大きさを再確認した。
さて。当時の日本を振り返るときには三つの視点が存在するように思える。1に共産党がいうような現在の視点からの否定(すなわち当時の状況・環境を考える必要はなく普遍的に否定)、2に当時の軍国主義・精神主義を否として、英帝国のような自由主義的帝国主義のかたちを取っていれば容認、三に戦争賛美の論調である。戦後の冷戦神話のせいか、どうしてもアジア太平洋戦争がイデオロギー的対立であったというイメージができあがってしまっているように思える。一方で帝国主義的な対立もあり得たと言うことを忘れてはならない。
私たちが見るとき上の3は論外としても、あくまで歴史的、政治手学的に見るということを大切にしたい。それぞれに関してきちんと整理して、考えて見ねばならない。凝り固まることで、当時の歴史上の戦略論として発表されたものを、現在の規範から猛烈に批判するということは、背景からしてずれており中傷合戦となる。このことは本当に気を付けなければならない。