戦争があるから荒廃がおき,飢饉が起こるのではない.まず飢饉があった.そして飢え死しないために,生きるために,人々は戦争に身を投げ打っていった.歴史のなかに浮かび上がる戦争の常態とは,日本にかかわらず生計としての戦争であったのだ.
「餓え」という観点から見るとき,気候変動は,本書の場合の17世紀の気候的変動は,13世紀のそれと並んで非常に重要なのであった.ヨーロッパ史の文脈からいえば「17世紀の全般的危機」の諸相の一部にこの気候変動があったことは疑い得ない.本書のすばらしいところは,そのような餓えにあたって人々がどのように動き,そして社会がどのように変動してゆくかということを微視的な点から明らかにしたことにある.そこにこの歴史書が,単なる歴史学書を越えた意味を持つのである.
戦争,特に総力戦に人災の面が大きいことは否めないし,戦争を憎むことも重要である.しかしながら歴史上全ての戦争の原因を人災に帰するとしたら,それは自然の軽視であり,人々の「生」への欲求の軽視であり,傲慢であろう。戦争の原因が飢饉であり,口減らしとしての戦争が充分な役割を果たしたとき,戦争の原因は取り除かれるのだ.全ての社会・人文に心を寄せる人々に勧める.
なお,2005年に上記の新版が選書として刊行されている。