斎藤純男『日本語音声学入門』

人間の発声器官の構造というのは基本的に共通で、各言語それぞれの発音を経験的に学ぶというのは、どうにも効率が悪い。音声学とは、各言語共通の音声について理解する学問であり、本書は調音音声学に重点をおいた音声学の入門書である。

音声学を学ぶことで、各言語での発音記号がどのようなものであれ、その音が理論的にどのように発声できるかはわかる。本書の特質は、日本語の音声を特に重視し、音声学的に記述される音声が、どのような音であるかを可能な限り、日本語の音声によって説明している点にある。

日本語の子音はk, s, t, n, m, y, r, wしかないような錯覚があるが、本当はもっと色々な音が含まれている。たとえば、「我を張る」の「が」と「パンが焼けた」の「が」は音声学的には別の音である。このようにして自分が簡単に発することのできる音をしっかり認識し、そこから、舌の位置や摩擦のさせ方を工夫して拡張することによって、発音の世界が広がる。そうして、音声学で共通に用いられる国際音標字母(IPA)を学ぶことができるのである。多言語を学ばなければいけない人は、いっそのこと音声学から入ったほうが、発音関連は楽かもしれないと思う。

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