従来から南北朝動乱当初は武家方の基盤が東にあり、宮方の基盤が西にあるという状況が、中期以降逆転することが指摘されていた。にもかかわらず、東国の南北朝についてはあまり読みやすい概説がなかったと思う。
本書は副題通り、国人たちが惣領制から一族一揆への変容をしてゆき現実的打算を重視していく過程と、この過程を北畠親房が完全に見誤っていた点に最も重点がおかれる。とはいえ、吉野と比較すれば親房はより革新的であったが、なお国人らに及ばなかったことも説かれる。これに関連して藤氏一揆を説明しているのは説得的である。また鎌倉府の成立に関する基本的な議論と知見も得られる。