青弓社らしい本.どこからどこまでカギ括弧の多いやや「現代思想」系の本.特に冒頭の加藤哲郎論文はいったい何を言いたいのかわからない.しかし読み進むにつれておもしろい論考が増える.従軍牧師(これは連隊に1人配属される宗教者のことで,もちろんイスラームのイマームもいる.全世界で13人,沖縄に1人いるらしい)の歴史的考察やアメリカ軍人日本人妻の今次イラク戦争時の聞き書きなどは非常に面白かった.
イラク侵攻においてアメリカ軍に従軍した朝日新聞記者のエッセイは,バランスが取れている.ジャーナリストの戦場での身の置き場によって視角が変わるということをよく認識している.朝日が駄目な新聞だからといって全ての記者が完全にだめということではないらしい.
またフェミニズムからの観察では,アルグレイブにおける一連の虐待は戦場における性別分業の逆転現象が起き始めたという指摘がなされている.女性兵士によるイラク男性の女性化は,これまでの戦場にみられなかったことで,戦場における母性や客体性という女性のこれまでのあり方規定も見直しが迫られているという.
全体として良書なのだが加藤論文のせいで空虚で高踏的な戦争批判本のようにみえてしまうことが残念でならない.