やたらと繰り返される真珠湾がローズヴェルトの陰謀によるという陰謀史観をただす書。すでに陰謀説はほぼ退けられてはいるが入門書など書店の棚を賑わすのは陰謀史観本ばかりだった。本書のように平易で説得的な書物の登場によって陰謀史観がこれ以上幅を利かせなくなることを望む。
ところで著者は鋭い指摘をしている。陰謀説はアメリカ側・日本側双方で人気があり、しかも響きあっているというのである。アメリカ側ではローズヴェルトの陰謀の犠牲となったアメリカ人、という視点から民主党を退役軍人会や共和党が攻撃するために、そして日本側では真珠湾はアメリカに炊きつけられたもので国際法違反ではない、だから日本に責任はないといった免責論のためなどが陰謀説の奥にある願望であるという。
著者の結論では、真珠湾は山本提督の大博打の勝利、しかし国際法違反、というものである。きわめて明快かつ史料的にも納得できる。ともすると太平洋戦争にかかわる議論はどのような立場からのものでも都合のよい史料ばかりが持ち出され、その中の都合のよい部分だけが引用されがちである。そのような立場を拒絶する著者のありようは立派である。