ガブリエル・マンデル・ハーン(矢島文夫監修, 緑慎也訳)『図説 アラビア文字事典』

これまでアラビア文字の本というとカリグラフィーの作品紹介が多かったが,これはその基礎となる各文字ごとの書法を一般読者にもわかりやすく紹介している本.さらにアラビア文字とはいかなる意味を持つかもイントロダクションで示されているので,アラビア文字を知らなくてもその美しさを楽しめる一冊.またすでにアラビア文字の知識を持つものでもムハンマド・マフスーズのアラビア文字における「大文字」なども初回されており,かなり楽しめる.各文字の部分でも三十一書体の独立形がそれぞれ示されていて,かなり勉強になる.おしむらくは独立形のみということだろうか.また附録二の「アラビア文字で自分の名前を書いてみよう」のアラビア文字がどう見てもType3のギザギザなのが惜しまれる.

松田之利, 筧敏生, 上村恵宏, 谷口和人, 所史隆, 黒田隆志『岐阜県の歴史』

いたってオーソドックスだが,比較的飛騨が詳しいほか,岐阜県域で発生したことを基礎に歴史事象を取捨している点,「飛山濃水」(飛騨の杣と輪中の暮らしなど)という対比を常に生かしつつ通俗的なイメージの修正(飛騨の匠)をきちんとしている点がよい.正月の松本のブリが飛騨ブリであって糸魚川ブリ,越中ブリでないということは車以前の道と人の動きのあり方がわかっておもしろい.

『プロとして恥ずかしくないデザインの大原則』

悪くない.かなりコンパクトにまとまっている.MdNの普段の細かい特集がきちんと集大成された感じ.一冊もっておいて損はない.ただし54ページの図五と図六が入れ替わっているのは,このような本としてはかなりこっぱずかしいのではないか.

藤田達生編『伊勢国司北畠氏の研究』

戦国三国司家のひとつ北畠氏について.

やや考古学方面の論文が多いが,北畠氏の市庭である多気のあり方については教えられるところが多い.近年進展の目覚しい中世後期の都市研究の成果がようやく伊勢南部にまで及んでいる.政治的中心地に形成される城下町が必ずしも流通中心化するわけではなく,一円化の様相もさまざまであることがわかる.

本書は史料の引用も多く,特に「木造記」は全文が載ることから,きちんと読むに耐える書物である一方,一般向きではないかもしれない.

足立紀尚『牛丼を変えたコメ―北海道「きらら397」の挑戦』

きらら397の話。ただ題名にやや偽りがあって牛丼ときららの話は序章のみ。あとは稲の交配と北海道できちんと育ち売れる食味、耐冷性に優れた米がどのようにしてつくれたかが主題。そのあたりは北海道史や農業史をそこそこ知っていればわかる話で、新聞のコラムのような語り口がかえって信頼性を失わせている。とはいえ、いくつかのインタビューは貴重で、陸羽132号といって知らない人は読んでおいたほうが良い。