カテゴリー: 読了
弓削尚子『啓蒙の世紀と文明観』
向一陽『離島を旅する』
友清理士『イギリス革命史(上)―オランダ戦争とオレンジ公ウイリアム』
詳細な事件史をナラティヴに.といったコンセプト.『ローマ人の物語』に近い性格で,専門家ではない方が書かれているので,最近の研究動向的には問題がありそうな気もする.
小沢浩『民衆宗教と国家神道』
梶村尚史『起床術─どうしても「スッキリ起きられない」あなたへ』
東藤覚『サウジから世界が見える―モスレムと共に23年』
河原俊昭, 山本忠行編『多言語社会がやってきた―世界の言語政策Q&A』
隼田嘉彦編『加賀・越前と美濃街道』
山室信一『キメラ―満洲国の肖像』
あかぎ出版編『信越本線120年―高崎~軽井沢』
あかぎ出版という地方出版社の刊行した本.わりと今までに見たことのない写真があり,また郷土史的な内容も豊富である.「街道の日本史」の上州と東信州の巻とあわせると興味深い.
深井甚三『越中・能登と北陸街道』
表題の越中・能登の全域と高山盆地以北の飛騨を扱う.本巻では東西の道である北陸街道だけでなく南北の道および水運についてもバランスよく記述されている.本シリーズでは従来ひとまとめにされなかった地域をまとめて扱うことがあるが本書もその一冊である.このような場合,各地域ごとに個別の記述に終始してしまい,統一的な地域を描き出すことに失敗する場合が多い.本巻は実にバランスよく,かつ自然に各地域を往き来しており編集の質が高い.これは富山周辺の1郡を除く加越能がすべて加賀藩領であったことも理由となるかもしれない.飛騨もなおざりにはされておらず,高山が近世を通じ現岐阜県域内最大の人口をほこる都市であった背景が丹念に説明されている.
鄭大均『在日・強制連行の神話』
現在の在日コリアンは日本の強制連行の被害者である,といういつの間にかひろまった言説の虚構性・政治性を指摘する本.文春なので右よりのヒステリックな叫びかと思ったのだが,語り口も堅実冷静で良心的な学究の書物であった.もとより前述の言説は政治的にどうのような立場にある研究者でも今日では否定されている話だが,一般向けに解説したものがあまりなかったのも事実である.上述の言説を信じているひとは一度読んでおいたほうがよい.逆に知っている人にとってはそれほど目新しい話があるわけでもない.
ロバート・ベア(柴田裕之訳)『裏切りの同盟―アメリカとサウジアラビアの危険な友好関係』
CIAの工作管理官だったという人のサウジアラビア=アメリカ同盟の危うさを描く本.もとよりサウジアラビア王族の腐敗とかサウジアラビアの人口増加による社会安定性の低下は中東研究者にとって常識である.本書は石油と武器をめぐるアメリカ政界とサウジアラビアとの金の流れなどを平易に説明しておりその点では啓蒙書的役割を果たしうるだろう.
ただし各所にCIAの検閲による削除部分があったり,著者の記憶に頼った記述があり,信頼度については疑問を呈せざるをえない部分もある.それでもムスリム同胞団に注目し,一方でサウジアラビアのイスラームであるワッハーブ派を重要視し,両者の結節点として自力でイブン・タイミーヤにたどり着いている点は評価できる.学界と現実的政策の前衛たる工作員の結論が符合したことを示している.
本書でもっとも注意すべき点はムスリム同胞団そのものが秘密テロ組織であるかのように描かれていることである.ムスリム同胞団は現在ではきわめて曖昧かつ多様性をもった存在で各国でその様相は異なる.一方で政治的組織があり,テログループにきわめて近い組織もあるが,一方で病院運営や救貧などきわめて社会福祉団体的な役割を果たしている部分もある.ムスリム同胞団はもはや一枚岩で指揮系統が一本化された秘密結社などではない.
訳は平易で実に読みやすい.プロの仕事である.しかしイスラームやアラビア語についてはほとんど注意を払っていない模様で「アッラーの神(「の神」はいらない)」や「サイード・クトゥブ(サイイド・クトゥブ)」など許容しがたい誤記も散見される.長音関連のカタカナ音訳全般(フランス語も間違っている)にも信頼がおけないのは残念である.
青弓社編集部編『従軍のポリティクス』
青弓社らしい本.どこからどこまでカギ括弧の多いやや「現代思想」系の本.特に冒頭の加藤哲郎論文はいったい何を言いたいのかわからない.しかし読み進むにつれておもしろい論考が増える.従軍牧師(これは連隊に1人配属される宗教者のことで,もちろんイスラームのイマームもいる.全世界で13人,沖縄に1人いるらしい)の歴史的考察やアメリカ軍人日本人妻の今次イラク戦争時の聞き書きなどは非常に面白かった.
イラク侵攻においてアメリカ軍に従軍した朝日新聞記者のエッセイは,バランスが取れている.ジャーナリストの戦場での身の置き場によって視角が変わるということをよく認識している.朝日が駄目な新聞だからといって全ての記者が完全にだめということではないらしい.
またフェミニズムからの観察では,アルグレイブにおける一連の虐待は戦場における性別分業の逆転現象が起き始めたという指摘がなされている.女性兵士によるイラク男性の女性化は,これまでの戦場にみられなかったことで,戦場における母性や客体性という女性のこれまでのあり方規定も見直しが迫られているという.
全体として良書なのだが加藤論文のせいで空虚で高踏的な戦争批判本のようにみえてしまうことが残念でならない.
山田寛人『植民地朝鮮における朝鮮語奨励政策―朝鮮語を学んだ日本人』
中野晴行『マンガ産業論』
加藤良平『エプソン―「挑戦」と「共生」の遺伝子』
プロジェクトX系.服部精工の一員エプソンのプリンタ事業の萌芽は東京オリンピックで精工舎がクオーツ時計を作成した際に,計時結果を出力する機器を作成したところにあるという.たしかに時計屋さんがプリンタになぜ手を出したのかというのは疑問に感じるところであろう.エプソンの社風はソニーに似ておりかなり自由なものだという.しかし,その遺伝子はソニーが「技術」「地球企業」「エンタテインメント」とすればエプソンのそれは「エンタテインメント」が「共生」に置き換わったものだという.諏訪という地域を重視し,技術も独占せず公開し,環境への配慮も最優先するエプソンの姿勢はまさに共生にふさわしいと言えよう.注意すべきはそのような企業がなぜインクカートリッジのインクを半分使っただけで「インクがありません」と言い出すインクジェットプリンタを作っているのか,ということだろう.またエプソンEpsonの社名は1968年の最初に作成したプリンタ「EP(Electric Printer)-101」の子供sonから来ている.どちらもSONYを彷彿とさせる.
松田美智子『お茶漬けの味100』
お茶漬けもここまでバリエーションが広がりうるという本.チキンスープをかけたり出汁をかけたりするのはやや邪道という気がするが,それを除いても充分な量のレシピがのっている.意外というか感心したのが,緑茶だけでなくほうじ茶や烏龍茶を用いるということ.これによって,強い臭いや香りをもつ具も自然な味わいになりそうだ.とりあえず作ってみようと思ったのは「炒め香菜の茶漬け」.これは烏龍茶でいただく.吸い口に金ごまを用いるのがポイントだろう.