きらら397の話。ただ題名にやや偽りがあって牛丼ときららの話は序章のみ。あとは稲の交配と北海道できちんと育ち売れる食味、耐冷性に優れた米がどのようにしてつくれたかが主題。そのあたりは北海道史や農業史をそこそこ知っていればわかる話で、新聞のコラムのような語り口がかえって信頼性を失わせている。とはいえ、いくつかのインタビューは貴重で、陸羽132号といって知らない人は読んでおいたほうが良い。
カテゴリー: 本
河村恵利『明日香の王女』全9巻
栗本薫『ノスフェラスへの道』(グイン・サーガ97)
鈴木真哉『戦国鉄砲・傭兵隊―天下人に逆らった紀州雑賀衆』
戦国期の雑賀衆を論じたまっとうな本。史料もきちんと使っており、ビブリオグラフィも整備されている。いっそ注がついていないのがもったいないと思うくらい。残念なことに新書の悪い癖で題名が適切でない。
著者の言うとおり雑賀衆を扱う専論はあまりなくて、理解がやや俗説に近いところにとどまってしまっていた観はある。たとえば本 願寺との関係がそれで、雑賀衆はかならずしも護法の立場にたって一貫して戦国期を戦ったわけではないという指摘がなされる。実際、鈴木孫一は後年は豊臣氏についている。これは雑賀衆内部での社会結合のあり方や雑賀惣中を構成する五郷間の関係性も影響しているようである。
一読した限りでは、研究はまだ緒についたばかりで、鉄砲がどのようにして移入されたかなどはまだ考察の余地があろう。さらに根来衆と雑賀衆の関係も問題で、そもそも根来衆は根来寺衆徒である。近年まで両者を同一視する議論がたえないが、根来寺は新義真言宗であって浄土真宗ではない。著者の目はこのあたりにも行き渡っており好感がもてる。ただ願わくば新書ばかりでなく専論ないしは雑誌論文を書いて欲しい。
河村一男『日航機墜落』
深井甚三, 久保尚文, 本郷真紹, 市川文彦『富山県の歴史』
田中圭一, 阿部洋輔, 中村義隆, 桑原正史, 金子達, 本間恂一『新潟県の歴史』
飯田文弥, 笹本正治, 秋山敬, 斎藤康彦『山梨県の歴史』
寺尾英智, 北村行遠編『反骨の導師―日親・日奥』
二ノ宮知子『のだめカンタービレ』
古川貞雄, 井原今朝男, 小平千文, 福島正樹, 青木歳幸『長野県の歴史』
室町期がよく書けている.あまりに些末でごちゃごちゃとしている時代だが,中世から近世への転換期の萌芽といわれる15世紀半ばを無視するかどうかで地方史概説の価値は決定的に変化する.
本書はただでさえ複雑なこの時期を信濃という小盆地分立の地域について外部との交流も含めて描き出すことに成功している.これまで読んできた県史の中でも中世史はかなり良い出来映えだ.
近世はやや記述が南に偏っている感.その分,中馬などに詳しいが,やはり『街道の日本史』に一歩譲る.その意味からはむしろ各藩政治史を詳述しても良かったのではないか.近代はもちろん蚕業を中心とするが,やや赤いのが難点.
2004年9月第4週の読みたい本
2004年9月第3週の読みたい本
2004年9月第2週の読みたい本
須藤眞志『真珠湾<奇襲>論争― 陰謀説・通告遅延・開戦外交』
やたらと繰り返される真珠湾がローズヴェルトの陰謀によるという陰謀史観をただす書。すでに陰謀説はほぼ退けられてはいるが入門書など書店の棚を賑わすのは陰謀史観本ばかりだった。本書のように平易で説得的な書物の登場によって陰謀史観がこれ以上幅を利かせなくなることを望む。
ところで著者は鋭い指摘をしている。陰謀説はアメリカ側・日本側双方で人気があり、しかも響きあっているというのである。アメリカ側ではローズヴェルトの陰謀の犠牲となったアメリカ人、という視点から民主党を退役軍人会や共和党が攻撃するために、そして日本側では真珠湾はアメリカに炊きつけられたもので国際法違反ではない、だから日本に責任はないといった免責論のためなどが陰謀説の奥にある願望であるという。
著者の結論では、真珠湾は山本提督の大博打の勝利、しかし国際法違反、というものである。きわめて明快かつ史料的にも納得できる。ともすると太平洋戦争にかかわる議論はどのような立場からのものでも都合のよい史料ばかりが持ち出され、その中の都合のよい部分だけが引用されがちである。そのような立場を拒絶する著者のありようは立派である。
2004年9月第1週の読みたい本
平山洋『福沢諭吉の真実』
私市正年『サハラが結ぶ南北交流』
小長谷 有紀『モンゴルの二十世紀―社会主義を生きた人びとの証言』
田村由美『BASARA』(全27巻)
実はBASARAはこれまで何回かアタックしていたのだが絵柄と登場人物の名前がどうにもなじめず1巻を最後まで読むことが出来ないでいた.今回はスッとはいることができた.話としては「天は赤い河のほとり」にやや近い.ただし完成度は「天は」に一歩譲るように思える.
朱理=赤の王,更紗=タタラが双方に認識されるまではあまりにひっぱりすぎだし,逆に認識した後,恋人は宿敵という文学上ポピュラーな主題における双方の葛藤の描き込みは足りない.また圧制者たる国王がなぜ圧制者たらざるをえないかがよくわからない.敵方にも事情があるはずで(夜郎組で表現しているがとても足りない).いかにして悪の立場に立ったのか.それを単なる悪者ですませてしまっているのは惜しい.