今野緒雪『夢の宮~竜の見た夢』

十二国記を読み終わったので三田図書館でとりあえずながく続くシリーズを借りてみる。

が、しかし。世界観の書き込みが圧倒的に足りない……やはり、これは少女向け恋愛小説に括られる小説にすぎないように思う。中華風の世界を舞台とし、その一国の後宮をめぐる物語なのだが、国や王、官の存在感が希薄なのだ。国をめぐる悲恋も登場し、亡国の恨みをはらす、ということが主要なモチーフの一つとなるが、亡国の原因やそれを巡る民のあり方というのがさっぱりわからない。もっとも、ここまでながくシリーズが続いているので、徐々に世界観も深まっていくのかも知れないが。

小野不由美『華胥の幽夢』

『十二国紀』6つめ.いよいよ既刊の十二国記をすべて読み終わってしまった。また新しいお話を求めてさまよわなければならない。歴史でもなんでもよい。お話を読んでいるときのほうが明らかに私の思考は活性化する。たとえそれが白昼夢や妄想の類に過ぎないにしても、だ。

小野不由美『東の海神 西の滄海』

『十二国紀』3つめ.前巻の陽子の物語から離れて、その前後の物語となる。こういう物語の構成だったのか……。しかし陽子編もまだまだあってしかるべき、と思ったら、この次がそうだった。

細井計『南部と南部道中』

第I部「南部を歩く」が非常に詳しく有益。しかし第II部、第III部の細井先生執筆部は山川『岩手県の歴史』とほとんど一字一句同じで、いただけ ない。たしかに岩手県の中心は盛岡領であって、その叙述が県の概説と重なってしまうのはいたしかたないかもしれないが……。それだけにこのシリーズは、二 つ以上の県にまたがる領域や、ある県の「辺境」にあたる部分が面白い。

ところで以前岩手県立博物館を訪れたときにも思ったが、及川古志郎、野村胡堂、金田一京助、田子一民が盛岡中学の同級で文学志向をもっていて、その すぐ下には石川啄木がいるというのは実に凝縮されていておもしろい。ちなみに私たち東洋史を学ぶものの学祖ともいえる那珂通世もやはり南部の出身で(とい うより前巻『下北・渡島と津軽海峡』で詳しく語られている那珂梧楼の養子)である。

浪川健治編『下北・渡島と津軽海峡』

良書。特に下北に詳しい。中央から見下ろす地方史だけでなく、北からの日本史の立場の克服をも目指す意欲作。ただし上北については特に近世以前では『青森県の歴史』のほうが詳しいかも知れない。

奥村晴彦『[改訂第3版]LaTeX2e美文書作成入門』

秀逸。何カ所か誤植もあるが、dvipdfmxやotfパッケージなどの解説が実に詳しくなっていて、pdfとの連携がいっそう容易になり、かつフォント 廻りの知識も得られる。多言語処理についても付録一章がついている。今年以降のスタンダードはこれでしょ。もはやAnother Manualからインストールするのは古いかと。

永井秀夫編『近代日本と北海道――「開拓」をめぐる虚像と実像』

論集である。

中村英重「岐阜県と北海道移住」は、北海道移民の移出元について市町村レヴェルまで遡って分析した研究。県下一円平均的に移民が発生するわけではなく、移出元は集中する傾向がある。移住史が移出先のみに着目している段階から移出元の事情まで詳細に分析する段階に入ったことを示す。もとより北海道移民は世界史的にも非常に規模の大きい移民であり、研究の意義も多大である。

ほかに注目論文としてはキリスト者坂本直寛の思想を追い直した金田隆一「北海道における坂本直寛の思想と行動」と一般に忘れ去られがちな近代に導入されたロシア民具の一つである橇の変容を論じる関秀志「外来民具の導入とその改良・普及について――ロシア型橇を中心に――」などがある。